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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)3585号 判決 1992年10月23日

主文

一  被告榎恵之は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成元年五月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告木村久及び被告株式会社月刊タイムス社は、原告に対し、連帯して、被告株式会社月刊タイムス社の発行する「月刊TIMES」に、別紙五内容欄記載の広告を、同掲載条件欄記載の条件で、一回掲載せよ。

三  被告榎恵之、被告木村久及び被告株式会社月刊タイムス社は、原告に対し、各自金三〇〇万円及びこれに対し、被告榎恵之は平成元年五月二六日から、被告木村久は同月二五日から、被告株式会社月刊タイムス社は同月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告株式会社月刊タイムス社及び被告株式会社内外タイムス社は、原告に対し、連帯して、被告株式会社内外タイムス社の発行する「内外タイムス」に、別紙六内容欄記載の広告を、同掲載条件欄記載の条件で、一回掲載せよ。

五  被告木村久、被告株式会社月刊タイムス社及び被告株式会社内外タイムス社は、原告に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対し、被告木村久は平成元年五月二五日から、被告株式会社月刊タイムス社は同月一九日から、被告株式会社内外タイムス社は同月二〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告のその余の各請求を棄却する。

七  訴訟費用は、原告と被告榎恵之との間においては、これを五分し、その一を同被告の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告木村久、被告株式会社月刊タイムス社及び被告株式会社内外タイムス社との間においては、これを三分し、その一を同被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

八  この判決は、第一項、第三項及び第五項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  名誉棄損行為について

一  請求原因1(当事者)のうち、原告が昭和三五年以来大阪弁護士会に所属する弁護士で、豊田商事の破産管財業務に携わつていること及び請求原因1の(二)の(2)ないし(4)の各事実は、当事者間に争いがなく、請求原因1のうちその余の事実は、《証拠略》により認められる(請求原因1の(二)の(1)の事実は、原告と被告榎及び同木村との間においては争いがない。)。

二  本件奈良日日新聞記事による名誉棄損について

1  請求原因2の(一)の(1)(同記事の掲載及び頒布)の事実及び同(2)(同記事による原告の名誉棄損)のうち、同記事の全体の論調が、原告は豊田商事の管財人グループの一員でありながら他方では同社と類似の詐欺的商法を営んで多数の者に被害を及ぼしていたセントラル交易の代理人を務めるという矛盾した行為をしており、これは弁護の余地のない二股こうやく行為であるというものであること及び同記事には、原告がセントラル交易から三一〇万円の報酬を受け取つたが後日返却したとの記載があることは被告榎と原告の間に争いがない。

右争いのない事実及び《証拠略》によれば、本件奈良日日新聞記事が前記認定にかかる原告に対する弁護士としての社会的評価を著しく失墜させる内容を具備しているものと認められ、同記事が掲載されて報道されたことは、原告の名誉を棄損するものと言うことができる。

2  請求原因3の(一)(本件奈良日日新聞記事についての被告榎の責任)の事実のうち、被告榎が本件奈良日日新聞記事を執筆した事実は被告榎と原告の間で争いがない。

右争いのない事実と《証拠略》によれば、本件奈良日日新聞記事中、大小の見出しは、奈良日日新聞社の震明整理部長が作成し、本文のうち二箇所(前記認定の原告の名誉を棄損する記述部分以外の箇所)に報道部長であつた西川が加筆したが、その他の本文は全て被告榎が執筆したことが認められる。

被告榎は、三一〇万円の授受に関しては、予定原稿から削除することとし、記事のフィルム制作担当者に対し削除を指示し、被告榎もその確認作業を行つたにもかかわらず、何らかのミスによつて、紙面に掲載されたと主張しているが、《証拠略》によれば、右削除部分について、被告榎は、震明整理部長からその校正作業を一任されていたことが認められる。

そして、右事実によれば、本件奈良日日新聞記事が奈良日日新聞に掲載、頒布され、右掲載、頒布により原告の名誉が棄損されることを被告榎において予見していたこと(三一〇万円についての記載部分は予見し得たこと)が認められる。

以上によれば、被告榎の主張する抗弁が肯定されない限り、本件奈良日日新聞記事の報道に関する被告榎の行為は違法であり、しかも、被告榎には右不法行為につき故意(三一〇万円についての記載部分については過失)があつたものと認められる。

三  本件月刊TIMES記事による名誉棄損について

1  請求原因2の(二)の(1)(同記事の掲載及び頒布)のうち、原告主張の本件月刊TIMES記事が掲載され、全国的に頒布されたこと並びに同記事の掲載された月刊TIMESの広告が週刊誌、新聞及び大阪地下鉄の車両内吊り広告に掲載されたことは被告榎、同木村及び同月刊タイムス社と原告との間において争いがない。また、請求原因2の(二)の(2)(同記事による原告の名誉棄損)のうち、本件月刊TIMES記事に、<1>原告がセントラル交易の会社側代理人として辣腕を振るつており、原告は表向きの顔は豊田商事の管財人でありながら裏の顔は同種事件の加害者側の立場にあり、原告の反論にもかかわらず原告がセントラル交易に関与した疑いは極めて濃いとの記述があつたこと、<3>奈良日日新聞社の訂正記事は、原告の同社に対する不当な圧力によるものである旨の記述があつたことは、被告榎、同木村及び同月刊タイムス社と原告との間においては争いがない。

右争いのない事実及び《証拠略》によれば、<1>本件月刊TIMES記事のうち三月号には、本件奈良日日新聞記事「によると鬼追氏は豊田商事の管財人を務める一方で『同じような詐欺商法で倒産したセントラル交易会社の会社側代理人としてもラツ腕をふるつていた』といわれる。つまり同弁護士は表向きの顔は豊田商事の管財人であり、裏の顔は同種事件の加害者側の立場にあつたというもの。ひと口でいうと、“マッチポンプ型”の弁護士。」、奈良日日新聞社に対する原告の抗議の「あとの調査でも、同弁護士(原告)はセントラル交易に関与した疑いはきわめて濃い。」との記載があること、<2>同三月号には、本件奈良日日新聞記事を書いた「同紙報道部のE記者」の話として、同記事は「セントラル交易の管財人が大阪地裁第六民事部六係に提出した同交易破産申立事件の『管財事務報告書』などの同一文書によるコピー」が「重要な証拠書類」として「決め手となつて報道された」、右重要な証拠書類の「中身は管財事務状況のほか、被害者と会社側代理人が補償交渉を行つた経過などが詳細に述べられてある。」、「問題の鬼追弁護士は、この報告書の中に三回程度、会社側代理人として他の八弁護士と共に名を連ねている。」、「文書の中には静岡地裁に提出された証拠書類のコピーも含まれているが、鬼追氏の名前が出てくるのは、この静岡地裁へ提出された報告書の文章中。そこには、まぎれもなく鬼追明夫の名が連ねられてある。」との記載があること、<3>同三月号には、奈良日日新聞社の「E記者」の話として「奈良県会議員のE氏に近い人物から事実無根として抗議があつた。次いで鬼追氏自身からの抗議文が郵送されてきた。これには、社内、とりわけ編集局内では相当の動揺があつた。新聞といつても小さな地方紙で県会議員などからの正面きつての抗議や圧力にはもろい面を持つているのですね。」などの記述があり、これに続く文面から、奈良日日新聞社の訂正記事は、原告が同社に不当な圧力をかけたことによつて掲載された旨の記載があること、<4>同三月号には、「最初からこの問題を取材していた某有力紙の記者」の「証言によると、『この問題でマスコミが動き出したのを察知した甲野共同法律事務所では、セントラル交易の代理人弁護士である乙山春夫氏を立て、同交易管財人である間瀬場弁護士に十一月中旬“返済”している。これは裁判所立ち会いのもとに行われた。間瀬場氏もこの返済金については“将来、誤解されやすいカネ”として、当初、受け取りを拒否したが、乙山氏からの執ような要請でやむなく寄附金または預り金として受け取り、同交易破産財団に返却する形をとつた。この事実を鬼追氏が知らないというのは不自然だ。返済された金は百五十万円と百六十万円、合わせて三百十万円。これは間瀬場氏自身が認めている。』と断言している。この証言が事実なら、鬼追氏は奈良日日の最初の記事が明らかにしたように『マッチポンプ型弁護士』となる。」、「そのあとの調査でも、同弁護士(原告)はセントラル交易に関与した疑いはきわめて濃い。甲野法律事務所全体に約三百万円の“弁護料”がセントラル交易から支払われているからだ。事務所に支払われたものを、事務所の代表者、鬼追氏だけが受け取つていなかつたのだろうか-。」との記載があること(被告榎及び同木村と原告との間においては争いがない。)、<5>同四月号には、「セントラル交易の顧問弁護士は、甲野共同法律事務所所属の乙山春夫氏が筆頭であり、鬼追氏ら残る八人も顧問の形で名を連ねている。」との記載があること(被告榎及び同木村と原告との間においては争いがない。)、<6>同三月号には、「在阪の某弁護士にいわせると『鬼追氏はそれ以外のまがいもの商法の代理だつた、というウワサも聞いている』と話し、疑惑行為のウワサにマユを曇らせている。」との記載があること(被告榎及び同木村と原告との間においては、争いがない。)がそれぞれ認められ、右事実を総合すると、本件月刊TIMES記事は、その論調として、原告は一方で豊田商事の破産管財人として被害者の立場に立ちながら、他方では同じく詐欺的商法で被害者を出したセントラル交易の代理人として辣腕を振るうという矛盾した行為を行つている上、右事実には裁判所の記録という公的な証拠があるにもかかわらず、原告は右事実を否定するために、新聞社に不当な圧力をかけたり、セントラル交易から受領した顧問料等をセントラル交易の管財人に返還したりしているとの悪印象を読者に与えるものである。

以上によれば、本件月刊TIMES記事は前記認定にかかる原告に対する弁護士としての社会的評価を著しく失墜させる内容を具備しているものと認められ、同記事が掲載されて報道されたことは、原告の名誉を棄損するものと評価できる。

2(一)  請求原因3の(二)の(1)(本件月刊TIMES記事についての被告木村の責任)及び同(2)(同記事についての被告月刊タイムス社の責任)のうち、同記事を被告木村が執筆した事実は、同被告と原告との間において、被告月刊タイムス社の被用者らが本件月刊TIMES記事を月刊TIMESに掲載したことは、被告月刊タイムス社と原告との間において争いがない。

右争いのない事実と《証拠略》によれば、本件月刊TIMES記事の本文は全て被告木村が執筆したものであること、見出しについては、通常本文の内容や筆者のヒントによつて出版社側で作成するものであるが、本件月刊TIMES記事の見出しは、被告木村が、被告月刊タイムス社に原稿を送付した際に各項目の記載内容のまとめとして本文の原稿に書き入れていた、いわゆる捨て見出しどおりに付されていること、被告月刊タイムス社の被用者である編集担当者が本件月刊TIMES記事を月刊TIMESに掲載、頒布したこと、被告木村及び同月刊タイムス社の編集担当者は本件月刊TIMES記事が掲載、頒布されれば、原告の名誉を棄損することを予見していたことが認められる。

以上によれば、被告の主張する抗弁が肯定されない限り、本件月刊TIMES記事報道に関する被告木村及び同月刊タイムス社の編集担当者の行為は、違法であり、しかも、同人らは右名誉棄損行為につき故意があつたものと認められる。

(二)  次に、同(3)(同記事についての被告榎の責任)について判断するに、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

被告榎は昭和五九年ころに当時勤めていた新大阪新聞社で被告木村に対し原稿の依頼を行つたことがあり、両人は本件以前から面識があつた。被告木村は、昭和六三年六月ころに産経新聞社の記者から原告の行動を記事にしたいとの話を聞いていたにもかかわらず、同年一一月ころ、同記事の掲載が弁護士の圧力によつて差し止められたとの話を聞いて、本件記事の作成を決意していたが、同年一二月二日付けの本件奈良日日新聞記事を産経新聞社の記者から見せられて、奈良日日新聞社に電話を架けて、被告榎が本件奈良日日新聞記事の執筆者であることを知り、同被告から事情を聞いた。平成元年一月中旬、被告木村は、被告榎に電話連絡をして、大阪市北区梅田の喫茶店で面談することとなつた。その際、被告榎は、同被告の記事作成の資料となつた間瀬場管財人作成の管財事務報告書及び静岡地裁判所の和解調書を持参し、被告木村はそれらのコピーを取得した。また、この際、原告が奈良日日新聞社に対して郵送した昭和六三年一二月六日付けの抗議・通告書及び同月二七日付けの意見書のコピーも何らかの方法で交付されたものである。そして、被告榎は、被告木村に対し、記事の内容及び記事掲載後の原告からの抗議によつて被告榎が原告への謝罪を命ぜられた状況等を話した。当時被告榎は、被告木村が当該取材結果を具体的に記事にするのか否かについては聞かされていなかつたが、場合によつては記事にされて雑誌等に掲載されるかもしれないことは予見していた。本件月刊TIMES記事の三月号の出版後の平成元年二月中旬にも、被告木村は、被告榎に対して、電話ないしは面談によつて取材し、被告榎が本件奈良日日新聞記事後社内で孤立してしまい、同年三月中に奈良日日新聞社を退職することを聞いた。

以上の事実が認められる。この点について、被告榎は原告の抗議文等を被告木村に交付した事実を否定しているが、被告木村が被告榎から受領したと供述していること、本件月刊TIMES記事の三月、四月号に掲載されている原告の抗議書等は原告が奈良日日新聞社に送付したものと一致すること(奈良日日新聞社の訂正記事にも原告の抗議文の一部が掲載されているが、本件月刊TIMES記事は、右訂正記事に掲載されていない部分も掲載している。)から、被告榎の前記供述部分は信用できない。

右認定の事実によつては、本件月刊TIMES記事が被告木村と同榎の共同作成であるとする原告の主張を認めるに足りず、他に原告の右主張を認め得べき証拠はないが、右事実によれば、被告榎が、記事の資料とした管財事務報告書及び和解調書並びに原告の抗議文等を被告木村に提供したこと、奈良日日新聞社への原告の抗議や被告榎の孤立状況を話したこと、場合によつては本件月刊TIMES記事のような内容の記事が被告木村により執筆、出版されることを予見しながら被告木村からの取材に応じたことが認められ、右によれば、被告榎が被告木村の本件月刊TIMES記事作成を幇助したものと言うことができる。

よつて、本件月刊TIMES記事の報道について、被告榎も、被告木村及び同月刊タイムスとともに共同不法行為責任を負う。

四  本件内外タイムス記事による名誉棄損について

1  請求原因2の(三)の(1)(同記事の掲載及び頒布)の事実は《証拠略》により認められる(被告月刊タイムス社及び同内外タイムス社と原告との間においては争いがない。)。

そこで、同(3)(同記事による原告の名誉棄損)について判断するに、《証拠略》によれば、本件内外タイムス記事には、「静岡市内に住む主婦Y子さん(41)」が大阪地裁へ提出した「上申書によると、『豊田商事の管財人、鬼追明夫弁護士は、同じ詐欺商法として問題となつたセントラル交易の代理人の一人でもあつた。このようなマッチポンプ型弁護士が大きな社会問題となつた詐欺事件に介在しているようでは、裁判所としても公正な審判ができるかどうか疑問』」、「鬼追氏は大阪地裁から豊田商事の管財人として指名を受けながら、その後もセントラル交易の代理人の一人として、同地裁に提出された記録に名前が出ている。」、記録はセントラル交易の破産管財人間瀬場弁護士の作成した管財事務の状況報告で、「その報告書の中に、会社側代理人として他の八人の弁護士とともに鬼追氏も名を連ねているのだから、これを見る限り逃られないところ。」、「乙山氏はセントラル交易側から受け取つていた計310万円の弁護料を、前出・管財人の間瀬場氏になぜか“返済”しているのだ。」「カネの面からも鬼追氏が同交易の代理人であることを裏付られるのを恐れて、慌てて“返済”したという図式が浮かび上がつてくる」、「この問題について同地裁民事六部の丙川夏夫書記官も」「『当裁判所に提出された報告書には鬼追氏の名前が記載されており、報告書を見た一般では、そう(原告がセントラル交易と無関係)とは解釈しないだろう』と微妙な言い回しをしている。」、「両事件とは無関係のある大阪の弁護士は、この問題について」「『鬼追氏の疑惑は、やはり“限りなく灰色に近い灰色”みたいで、豊田商事の管財人にとどまつているのは問題があるのではないでしょうか』」との本文の記載があり、「疑惑弁護士剥がされた仮面」「豊田商事の管財人」「28億詐取セントラル交易の代理人も」との大見出しとともに、原告が豊田商事の管財人でありながら、同種詐欺商法のセントラル交易の代理人の一人であり、セントラル交易の被害者としては許せないとの上申書が大阪地裁に提出され、取材してみるとセントラル交易の管財事務報告書等客観的な証拠があり、そのことは大阪地裁の書記官も認めるところで、原告はセントラル交易からの弁護料をセントラル交易の管財人に返還するという証拠の湮滅ともいえる行為も行つており、原告の疑惑は拭い去れないとする論調である。

以上によれば、本件内外タイムス記事は前記認定にかかる原告に対する弁護士としての社会的評価を著しく失墜させる内容を具備するものと認められ、同記事が掲載されて報道されたことは、原告の名誉を棄損するものと評価できる。

2(一)  請求原因3の(三)の(1)(同記事についての被告内外タイムス社の責任)のうち、被告内外タイムス社の被用者らが本件内外タイムス記事を作成して内外タイムスに掲載したことは被告内外タイムス社と原告との間で争いがない。右争いのない事実と《証拠略》によると、本件内外タイムス記事の本文は、被告内外タイムス社の代表者が被告月刊タイムス社代表者から借り受けた原稿及び和解調書という資料を基に、被告内外タイムス社の編集局長である大畑隆(以下「大畑編集局長」という。)が執筆したもので、見出しは、同社の整理部の担当者が付けたこと、大畑編集局長が本件内外タイムス記事を内外タイムス紙に掲載、頒布したこと、同局長は本件内外タイムス記事が掲載、頒布されれば、原告の名誉を棄損することを予見していたことが認められる。

以上によれば、被告内外タイムス社の主張する抗弁が肯定されない限り、本件内外タイムス記事報道に関する被告内外タイムス社の大畑編集局長及び整理部担当者の行為は違法であり、しかも、同人らは右不法行為につき故意があつたものと認められる。

(二)  次に、同(2)(同記事についての被告木村及び同月刊タイムス社の責任)について判断するに、《証拠略》によれば、被告内外タイムス社の大畑編集局長及び同社代表者は、被告月刊タイムス社代表者からの情報で、原告に関する記事を内外タイムスでも取り上げることを決意したこと、被告内外タイムス社代表者は、被告月刊タイムス社代表者から被告木村作成と思われる原稿七、八枚と原告氏名の記載のある和解調書という資料を受け取つたこと、大畑編集局長が右原稿及び資料を基に記事を新聞用に書き直して本件内外タイムス記事を作成し、内外タイムスに掲載したことが認められる。

右認定の事実によると、被告月刊タイムス社代表者は、本件月刊TIMES記事の資料とした和解調書と被告木村作成の原稿を、本件内外タイムス記事作成のために、被告内外タイムス社に提供したことが認められ、右事実によれば、被告月刊タイムス社代表者が、内外タイムスの紙面を借りて原告に対する名誉棄損を意図したとまでは認めることはできないが、少なくとも、被告月刊タイムス社代表者は、本件内外タイムス記事の作成を幇助したものと認められる。よつて、本件内外タイムス記事の報道に関する被告月刊タイムス社の代表者の行為は違法であり、しかも、同人は右幇助行為につき故意があつたものと認められる。

そして、被告木村についても、同被告が本件内外タイムス記事のために原稿を作成したとまで認めるに足りる証拠はないが、共同不法行為者各自が客観的に関連、共同して他人に違法に損害を加えた場合において、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えるときは、各自が、右違法な加害行為と相当因果関係にある損害について、その賠償の責に任ずべきであり、被告木村は、同月刊タイムス社の編集担当者と共謀の上、本件月刊TIMES記事の原稿及び資料を被告月刊タイムス社に提供して本件月刊TIMES記事の掲載及び出版を行つたのであるから、のちに被告月刊タイムス社の代表者が同内外タイムス社への原稿及び資料の提供を行い、これらによつて本件内外タイムス記事による原告の名誉棄損が発生した本件においては、かかる事態の進展が全く予見不可能なものとは言えないから、被告木村の行為と右結果発生との間に相当因果関係があると認められ、したがつて、被告木村もその賠償の責に任ずべきであると解するのが相当である。

第二  抗弁について

一  事実の経過

《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1(乙山弁護士によるセントラル交易等からの受任)

原告は、昭和三七年四月に甲野共同法律事務所という共同事務所を設置し、以来これに所属している。甲野共同には、昭和五八年当時は八名の、昭和六〇年当時は九名の弁護士が所属しており、同事務所の経営は、これらのパートナー弁護士が共同で行つていた。個々の事件の受任については、原則としては共同で受任することとしており、共同受任(少なくとも訴訟代理権の受権)には全員の弁護士が相互に包括的に承認していたことから、個々の弁護士の承諾を取ることなく行われていたが、例外的には事件の性質等個別の事情によつて、事件担当弁護士の判断で単独受任としていた。具体的には、事件依頼者が特定の信条なりを有しており、甲野共同の他の弁護士の信条等と相反するような場合、依頼者からの特別の希望のあつた場合、当該弁護士が甲野共同以外の弁護士の事件を個人的に応援するような場合等には、単独で受任していた。事件受任の際には各応接室に備付けの委任状用紙を使用していたが、右備付けの用紙には、あらかじめ甲野共同所属弁護士全員の連名のゴム印が押印され(一部には手書きによる記名部分があり。以下「共用委任状」という。)、印紙が貼付済みであつたことから、単独で受任する際の委任状は、これを使用せずにゴム印等を押す以前の用紙に当該弁護士の単独の氏名ゴム印を押印ないしは氏名を記入して作成するか、共用委任状の連名のゴム印ないし一部の手書き氏名のうち他の弁護士の氏名部分に線を引いてこれを抹消した上で同用紙を使用していた。

昭和五八年一一月末、甲野共同に所属する乙山弁護士に、セントラル交易及びその代表者長瀬克行から既に裁判所に係属している訴訟事件等の処理について依頼があつた(この点については、被告月刊タイムス社及び同内外タイムス社との間においては争いがない。)。これは、同社等の代理人を務めていた顧問弁護士の沼田引一弁護士が交通事故で急死したために、その前年に一度会つて面識のあつた乙山弁護士に事件の処理を依頼してきたものである。乙山弁護士は、右セントラル交易が海外先物取引規制法に基づいて金の相場を扱う会社であることを聞いて、当時甲野共同所属の他の弁護士が弁護士会の消費者保護委員会の活動を行つていたことから、その活動と抵触することを危惧して、乙山弁護士が単独で受任することとした。そして、前記のように共用委任状から他の弁護士名を削除して、あるいは弁護士名記入前の用紙を使用して委任状を作成することとした。当時既に係属中の事件は三、四件であつたが、その後セントラル交易及びその代表者は次々に結局合計二九件の訴訟を提起されることとなり、いずれについても乙山弁護士が単独で受任することとし、これらに関し五八通の委任状が作成されることとなつた。右委任状五八通のうち、四二通については乙山弁護士単独の氏名がゴム印ないしは手書で記入され、一一通は共用委任状の弁護士連名のゴム印中乙山弁護士以外の弁護士の氏名は線を引いて抹消されているが、<1>静岡地方裁判所昭和五八年(ワ)第四三六号損害賠償請求事件(昭和五九年一一月一六日和解成立)の被告長瀬の委任状、<2>同地裁昭和六〇年(ワ)第一七一号損害賠償請求事件(同地裁昭和五九年(ワ)第五二六号損害賠償請求事件外五件に併合されて審理、昭和六〇年一一月一日和解成立)の被告セントラル交易と同長瀬の各委任状及び<3>大阪地方裁判所昭和六〇年(ワ)第二五九八号損害賠償請求事件(昭和六〇年五月二七日和解成立)の被告セントラル交易及び同長瀬の各委任状の合計三件、五通の委任状については、受任者欄の連名のゴム印のうち乙山弁護士以外の弁護士名の抹消がされないまま、各裁判所に提出された。その結果、右三件のうち二件の和解調書の当事者目録欄には乙山弁護士とともに原告を含む他の同僚弁護士の名前が列記されることとなつた。なお、<1>の事件の被告は、セントラル交易及び同代表者長瀬の二名であるが、うちセントラル交易の委任状は乙山弁護士への単独の委任状である。<2>の事件は六件の事件と併合された事件であるが、それらの各事件の委任状のうち、前記二通の委任状を除く、他の委任状は全て乙山弁護士への単独の委任状である。また、委任状の作成は事務処理の一環として事務員が行う場合もあり、本件で弁護士名列記のままの委任状の空欄は、乙山弁護士以外の者が記入しており、その場合に乙山弁護士が逐一確認することは行つていないため、乙山弁護士は、右五通の共用委任状が裁判所に提出されていることに気付いていなかつた。

セントラル交易等の事件処理は乙山弁護士が全て単独で行つていたものであり、原告は、右事件については、訴訟行為はもとより相談、指導についても一度も関与せず、昭和六三年九月までは乙山弁護士が同事件に関与していたことも知らなかつた。

2 (三一〇万円の授受及び提供)

甲野共同では、所属の各弁護士がそれぞれの弁護士業務によつて得た収入を全て事務所に入れて、そこから必要経費を出捐した上で、給料あるいは利益配分という形で各弁護士に還元するという共同経営システンを採用している。そこで、乙山弁護士とセントラル交易及び長瀬との間の話合いで決まつた訴訟事件の着手金一五〇万円及び顧問料月一〇万円宛の合計三一〇万円がセントラル交易から甲野共同の銀行口座に振り込まれた。

昭和六一年三月、乙山弁護士は、当時一件のみ残つていたセントラル交易の受任事件を同社の破産宣告の申立てに伴い、辞任し、同月二八日、セントラル交易は、大阪地方裁判所から破産宣告を受け、大阪弁護士会所属の間瀬場弁護士が破産管財人に選任された(この点については、被告榎及び同木村と原告との間においては争いがない。)。

昭和六三年九月初め、原告は、間瀬場管財人から、原告名がセントラル交易の和解調書に同社等の訴訟代理人として記載されており、マスコミが原告に関して取材活動を行つているとの情報を得た。そして、原告は、同年一〇月八日には朝日新聞社記者、同年一一月初めには産経新聞社記者の取材を受けた。そのような経過の中で、原告の所属する甲野共同に入金されていた前記着手金及び顧問料について、原告は、豊田商事管財人団及び甲野共同内で討議した結果、これを間瀬場管財人の方へ返すとなると後めたいところがあるので返したのだなどと誤解されかねないとの意見もあつたが、結局、原告の携わつている豊田商事の管財業務においては同社の元顧問弁護士に対し顧問料の返還を要望したことに鑑み、豊田商事の管財人団の一つの倫理観をはつきりさせる意味でも、セントラル交易の被害弁償の一助にと、右セントラル交易から受領した三一〇万円を乙山弁護士からセントラル交易の破産財団に対して返還するとの結論に達した。間瀬場管財人は、破産裁判所と相談の上、昭和六三年一一月一二日、申し入れの趣旨に従つて右金員の贈与を受けた。

二  記事の真実性の証明(抗弁1の(一)の(2))について

本件奈良日日新聞記事、本件月刊TIMES記事及び本件内外タイムス記事(以下「本件記事」という。)の記事内容のうち、その違法性をもたらす事実として重要なものは、いずれの記事においても共通であつて、以下の二点に要約できる。<1>豊田商事の管財人である弁護士の原告が、他方で同様の詐欺的商法で加害者の立場にあるセントラル交易の訴訟代理人として活動し、豊田商事管財人として、その被害者救済の立場での活動と明らかに矛盾する行為をしていること、<2>原告は、セントラル交易からその訴訟代理人として活動した報酬等として受領していた三一〇万円を、原告が矛盾した行為をしていることの裏付けとして指摘されることを考えて、慌てて返却したこと、以上に要約できる。さらに、本件月刊TIMES記事においては、<3>前記の矛盾した行為について取材がなされていることを知つた原告は、これが報道されることを妨害するため不当に圧力をかけたことが挙げられる。そこで、右三点について、その真実性の証明がなされているか否か、以下検討する。

前記一に認定の事実と《証拠略》によれば、右<1>に関しては、セントラル交易及び同代表者長瀬の乙山弁護士に対する委任状が作成された際、三件の訴訟事件については誤つて原告の氏名を含む甲野共同の同僚弁護士氏名の連記された委任状が乙山弁護士以外の氏名を抹消しないまま使用され、裁判所へ提出されたため、豊田商事管財人代理人である原告が豊田商事と同種の詐欺的商法を行つたセントラル交易から訴訟代理権の授与を受けたものとされていること、<2>に関しては、セントラル交易から乙山弁護士に対する事件着手金及び顧問料は、甲野共同が完全な共同経理を採用していたことから、乙山弁護士に対してではなく、甲野共同に振り込まれていたが、平成元年一一月、原告は、周囲と協議の結果、右甲野共同に振り込まれていた三一〇万円を乙山弁護士からセントラル交易に贈与し、間瀬場管財人がこれを受領したこと、<3>に関しては、昭和六三年一二月一日に被告榎の取材を受けて、同被告の取材態度に不審を覚えた原告は、奈良日日新聞社の責任者に面談して再度説明すべく、同日午後一〇時ころ、原告の高校の後輩にあたる奈良県県会議員の榎議員に奈良日日新聞社の編集局長ないしは社主を紹介してくれるよう電話で依頼し、翌日、同議員が奈良日日新聞社にその旨電話を入れたが、すでに本件奈良日日新聞記事が同日付けで掲載されたことから、同日の夕刻には原告から同議員に対して、先の依頼を断る旨の電話連絡がなされたこと、そして、同月六日(到達は翌七日)、原告は、本件奈良日日新聞社に対し、本件記事に関する抗議文を送付したところ、同社は改めて取材の上、同月二六日付けで訂正記事を同紙に掲載し、これに対し原告は、同月二七日(到達は翌二八日)、右訂正記事の掲載を評価しつつも、未だ不備な点を指摘する意見書を再度奈良日日新聞社に送付したこと、を認めることができる。

右事実と本件記事とを比較検討するに、本件記事のうちの一部分については、真実と一致するとも言えるが、その違法性をもたらす重要な表現部分については真実とは認められない。すなわち、まず、<1>については、前示三件の訴訟事件について、訴訟法上の効果として訴訟代理人の地位についたことは法律的に考察すれば真実であり、否定できないが、前示のとおり、これは甲野共同の委任状作成手続上のミスに起因することは明白であつて、原告が右事件について実質的な活動、たとえば、準備書面等の作成、法廷等への出頭、当事者等との交渉、打合せなどの訴訟代理人としての実務をおこなつていないことは明らかである。<2>については、三一〇万円が原告の訴訟代理人の活動の対価と認めることはできず、したがつて被告ら主張のような意図で原告が三一〇万円の返却に関わつたものとは認められない。<3>については、奈良日日新聞社に対して、前記のような形での抗議行動をしたことは事実であるが、これは被告らが主張するような、報道を妨害するための不当な圧力ということはできない。

なお、<1>の点に関して被告月刊タイムス社及び同内外タイムス社は、複数の訴訟代理人がいる場合には、一人の代理人の行為は全代理人の行為とみられるとして、その一人である乙山弁護士が現にセントラル交易等の代理人として訴訟活動を行つた以上、それは原告がセントラル交易のために活動したことになる旨の主張をするが、個別代理の原則(民事訴訟法八三条)からして、右主張は失当である。したがつて、前記<1>の事実をもつて、原告がセントラル交易等の代理人として行動した、ましてや辣腕を振るつたとの事実の真実性の証明があつたとは到底言えない。

以上のとおりであつて、事実の真実性についての被告らの主張は認められない。

三  真実であると信じたことについての相当の理由(抗弁1の(一)の(2))の有無

1  本件奈良日日新聞記事について(被告榎関係)

(一) 取材経過

抗弁1の(一)の(2)のア(被告榎の取材経過等)のうち、昭和六三年一二月一日被告榎が原告宅で原告と面談し、原告の豊田商事管財人の立場はセントラル交易代理人の立場と矛盾するとの被告榎の質問に対し、原告が事務上のミスから裁判記録に原告の名前がでてしまつた旨回答したことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実と《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

昭和六三年一一月初めに投書を、一〇日程後に間瀬場管財人作成の管財事務報告書及び静岡地裁の和解調書の写しを受け取つた被告榎は、奈良日日新聞社の編集会議でその旨を報告したところ、西川報道部長から本件記事の作成を指示された。そこで、被告榎は、電話帳のタウンページで無作為に抽出した弁護士事務所四箇所程に電話をかけ、原告のみならず、豊田商事やセントラル交易の名前も出さないようにして、「詐欺事件に関連して同じような事件が平行して起こつていて、同時進行で、片一方では被害者の弁護をやつていて、片一方では他方側の弁護を行つていると、そういうようなことは現実に一人の弁護士として考えられるか」との趣旨の質問をして各弁護士からのコメントを得た。次に、被告榎は、大阪府警記者クラブや中之島図書館に出向いて、豊田商事及びセントラル交易に関する新聞記事を調べた。そして、被告榎は、記事掲載の前夜である昭和六三年一二月一日午後五時ころ、原告宅を訪ねて取材を行つたが、被告榎のセントラル交易の代理人をしていたかとの質問に対して原告はこれを否定し、それでは何故裁判記録に原告の名前が記載されているのかとの質問に対しては、委任状提出の際の事務上のミスであるとして前記一認定の事情を説明したところ、被告榎は、そうであるならば裁判所から送付されてくる裁判記録(この点、被告榎は、各口頭弁論期日ごとにその調書が各訴訟代理人事務所に送付されてくるものと理解して、質問していたようであるが、原告が弁護士としてそのような説明をすることは考えられず、原告は、最終期日の和解調書についての返答を行つたものと考えられる。)を見れば、ミスに気付くはずであるとの追及を行つたので、原告は、実際にはセントラル交易の事件を担当しない原告が右記録に目を通す機会はなく、担当の乙山弁護士も見落としたものと思うとの答弁をしたが、被告榎としては、共同訴訟代理人の立場にあつた原告がその裁判記録に目を通さないということは信じられないことであると考え、事務上のミスであるとの原告の説明も詭弁であるとした。なお、締切時間との関係等で三一〇万円についての真否を確認することはないまま、取材は終了した。

(二) 右取材経過に鑑みると、被告榎は、和解調書におけるセントラル交易の訴訟代理人欄に原告の名前が列記されてあつたことから、原告がセントラル交易らの代理人として法廷等で活動していたと即断し、原告が取材時に右調書に原告の名前が記載されることとなつた経緯を説明したにもかかわらず、それを詭弁と即断して、本件記事においては、その説明要旨を正確には紹介しないままに、他の弁護士の談話の形で原告の行動を非難している。しかも、それら弁護士の談話は、具体的な事実関係を基に聴取したものではなく、被告榎の誤解した事実を前提として行われているにもかかわらず、紙面上においては、当該弁護士が原告の行為を直接指して「鬼追さんのやつていることは二股こうやく以外のなにものでもない」となじつた旨の記載となつており、取材事実とも異なるものである。

被告榎としては、原告からセントラル交易の代理人として実質的に活動していたことを否定され和解調書に原告の名前が載ることとなつた経緯を説明されている以上、それでも原告がセントラル交易の代理人として実質的に活動したとして本件記事を作成するにあたつては、事柄の重要性に鑑み、和解の相手方やセントラル交易代表者、管財人等に対しても取材を行い真偽を確かめるべきであつて、軽率に、これらも行わないまま、ましてや異なる前提に対するコメントを流用して、原告の説明に理由がなく、原告の行為は非難されるべきであると結論付けている本件記事につき、被告榎が真実に合致すると信じるにつき相当の理由があつたとは言えない。よつて、その余の点を判断するまでもなく、被告榎の抗弁は理由がなく、同被告は損害賠償責任を負担する。

2  本件月刊TIMES記事について

(被告木村及び同月刊タイムス社関係)

(一) 取材の経過

抗弁1の(一)の(2)のイ(被告木村の取材経過等)のうち、被告木村が、「豊田商事の正体」という本を出版したこと、昭和六三年一二月二八日に甲野共同において原告と面談したこと、その際に三一〇万円の授受についての質問に対し、原告は授受への関与を否定したことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実と前記第一の三の(二)に認定の事実、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

前記のとおり、被告木村は、昭和六三年六月ころに産経新聞社及び朝日新聞社の記者らからセントラル交易の裁判記録に原告の名前が掲載されているとして当該裁判記録の写しを見せられ、原告の行為は弁護士倫理に反するのではないかとの話を聞いていたが、同年一一月には右産経新聞への記事掲載が中止となつて、同年一二月には、本件奈良日日新聞記事を貰い受けたことから、奈良日日新聞社に電話を架けて、被告榎から事情を聞いた。同月二八日、被告木村は、甲野共同において原告に面談したが、セントラル交易の代理人でありながら同時に豊田商事の管財人を務めるのは矛盾した行為ではないかとの追及に対し、原告は、セントラル交易事件への関与を否定し、原告の名前がセントラル交易関連事件の和解調書に記載されることとなつた前記一認定の経緯を説明し、奈良日日新聞社も了解して訂正記事を掲載したとして同記事の掲載された奈良日日新聞を被告木村に交付した。さらに、被告木村は、原告が甲野共同の代表者としてセントラル交易から代理人の報酬として約三〇〇万円を受領しながら、後にあわてて返済したということを前記記者から聞いていたことから、原告に対しその点を確認したところ、原告は、原告自身の報酬ないし顧問料として右金員を受領したことについては、これを否定した。平成元年一月中旬には、被告木村は、同榎と面談の上、記事の内容及び記事掲載後の原告からの抗議によつて被告榎が原告への謝罪を命ぜられた状況等を聴取するとともに、同被告の記事作成の資料となつた間瀬場管財人作成の管財事務報告書及び静岡地方裁判所の和解調書並びに原告が奈良日日新聞社に対して郵送した昭和六三年一二月六日付けの抗議・通告書及び同月二七日付けの意見書のコピーを取得した。被告木村は、右間瀬場管財人作成の管財事務報告書と和解調書が一冊に綴られていたことから、内容を特に検討しないまま、一冊の報告書であると認識していた。同月三〇日、被告木村は、静岡にセントラル交易の事件の相手方弁護士である藤森克美弁護士を訪ね、原告がセントラル交易の代理人としてどのような活動をしているか質問したところ、同弁護士は、原告はセントラル交易の事件に関与していないと思うと回答し、原告の弁護士としての業績を評価する発言を行つた。また同弁護士から被害者への損害賠償金の支払いは進んでいないことを聞いた。以上の取材を通じて、被告木村は、裁判所の記録に名前が載つている以上、原告がセントラル交易の代理人であることは明らかであり、代理人である以上、同社の顧問弁護士団会議に出席するなどしてその商法に深く関わつたことは当然であり、また、同社の事件で被害者への損害金が実際にはほとんど一銭も戻らない状況にあるのは、同社代理人が辣腕を振るつた結果であると考えた。本件月刊TIMES記事の三月号の出版後の平成元年二月中旬にも、被告木村は、被告榎に対して、電話ないしは面談によつて取材し、被告榎が本件奈良日日新聞記事掲載後社内で孤立してしまい、同年三月中に奈良日日新聞社を退職することを聞いた。

(二) 右取材経過に鑑みると、被告木村は、単に和解調書(被告木村の理解としては、間瀬場管財人の管財事務報告書の一部)のセントラル交易らの訴訟代理人として原告の名前が記載されていたこと及びセントラル交易事件の被害弁償が進んでいないとの事実聴取から、原告がセントラル交易の顧問弁護士として同社の商法に加担し、被害者からの訴追に対しても辣腕をふるつて同社を助けたという結論を導いており、原告の前記説明や奈良日日新聞社の訂正記事、藤森弁護士の証言等、右結論の誤りが容易にわかる資料を得ながらこれを無視して本件記事を作成して掲載しているのであつて、同記事が真実に合致すると信じるにつき相当の理由があつたとは到底言えないものである。そして、被告月刊タイムス社担当者は、同記事の真実性について特段の裏付調査も行わず、軽率にこれを採用したものと言うべく、同担当者においても同記事が真実に合致すると信じるにつき相当の理由があつたとは認められない。よつて、その余の点を判断するまでもなく、被告木村及び同月刊タイムス社の抗弁は理由がなく、被告木村及び同月刊タイムス社(同社については民法七一五条に基づき)は、損害賠償義務を負担する。

3  本件内外タイムス記事について(被告内外タイムス社関係)

抗弁1の(一)の(2)のイ(本件内外タイムス記事発刊の経過)の事実を認めるに足りる証拠はなく、むしろ前記第一の四の2に認定の事実及び《証拠略》によれば、被告内外タイムス社担当者は原告をはじめ関係者に対する取材を全くしないまま、被告月刊タイムス社から入手した原稿を書き直して本件記事を作成したものであることが認められる。被告内外タイムス社の代表者は、同社担当者において直接取材したかの如き供述をするが、その内容は抽象的で明確でなくにわかに信用することができない。よつて、同記事が真実に合致すると信じるにつき相当の理由があつたと認めることはできず、その余の点を判断するまでもなく、被告内外タイムス社の抗弁は理由がない。

よつて、被告内外タイムス社は、民法七一五条により損害賠償責任を負担する。

四  公正な論評(抗弁1の(二))について

被告らの「二股こうやく」「マッチポンプ」との論評が正当な批判として、免責されるためには、それが誤りのない事実に基づくものでなければならず、前記のとおり、原告がセントラル交易の代理人として活動したとは認められないから、被告らの主張は理由がない。

五  過失相殺(抗弁2)について

本件の発端は、前記第二の三の1の(一)に認定のとおり、被告榎が投書を受けたことによるものであり、その資料として添付された静岡地裁の和解調書写しに原告の氏名が訴訟代理人として記載されていたことも一因となつているものであり、原告氏名の右和解調書への記載は、前記第二の一の1に認定のとおり、甲野共同に属する事務員ないし乙山弁護士の事務上の誤りによるものである。したがつて、本件損害賠償を算定するにあたつては、右事務上の誤りを原告側の過失相殺事由とすべきであるが、右過失相殺は、原告の慰謝料額の認定において考慮するをもつて足りるものと考える。

第三  慰謝料額

一  本件奈良日日新聞記事について

本件奈良日日新聞記事の報道によつて、原告はその弁護士としての名誉を著しく棄損され、特に同紙が原告の居住する奈良県の地方紙であることも原告に対して精神的苦痛を増大させたものである。かかる精神的苦痛に対する慰謝料額の決定にあたつては、本件記事の内容、表現、原告の地位、経歴等諸般の事情を考慮すべきであるが、同紙においては前記のとおり既に訂正記事が掲載されていること及び前示のとおり本件報道の契機となつた和解調書における原告名の掲載が原告の所属する甲野共同における事務上のミスに起因することをも斟酌すべきであつて、以上を総合勘案すると、被告榎が、原告に対して支払うべき慰謝料は一〇〇万円をもつて相当と認める。

二  本件月刊TIMES記事について

本件月刊TIMES記事の報道によつて、原告はその弁護士としての名誉を著しく棄損され、多大な精神的損害を被つたものであるが、右精神的被害の決定にあたつては、前項記載の事項以外に、本件記事が三か月にわたつて連載されたこと、同紙の広告が週刊誌及び新聞紙に掲載されたのみならず、《証拠略》によれば、大阪市営地下鉄車内の吊り広告は本件広告が初めてであり、本件一回に止まつていること、月刊TIMESの月間販売数は約三〇〇部であり、大阪市営地下鉄車内の吊り広告には約六〇万円の費用を必要とし、広告のデザイン料、印刷料をも含め約一〇〇万円の費用を要し、月刊TIMES誌を二〇〇〇部売り上げてようやくその費用を回収し得るにとどまることが認められることに徴すると、多衆の注視を集める本件大阪市営地下鉄車内の本件吊り広告が極めて意図的になされたとも言い得ることをも斟酌すべきであつて、それらを総合判断すると、被告榎、同木村及び同月刊タイムス社が、原告に対し、連帯して支払うべき慰謝料は三〇〇万円をもつて相当とする。

三  本件内外タイムス記事について

同じく原告の名誉を著しく棄損し、同人に多大な精神的損害を与えた本件内外タイムス記事についても、同記事の内容、表現、原告の地位、経歴等、前記甲野共同における事務上のミスの点も含めて諸般の事情を総合勘案すると、被告木村、同月刊タイムス社及び同内外タイムス社が、原告に対し、連帯して支払うべき慰謝料額は二〇〇万円をもつて相当と認める。

第四  名誉回復措置

弁護士の活動においては信用が最も重視されるものの一つであることに鑑みれば、本件月刊TIMES記事及び本件内外タイムス記事による名誉棄損については、相当な名誉回復措置を講ずることが必要である。

そして、原告の名誉回復措置としては、被告木村及び同月刊タイムス社は、別紙五記載の広告を、同掲載条件欄記載の条件で、本件月刊TIMES記事が掲載された月刊TIMESに、被告木村、同月刊タイムス社及び同内外タイムス社は、別紙六記載の広告を、同掲載条件欄記載の条件で、本件内外タイムス記事が掲載された内外タイムスにそれぞれ一回掲載するのが相当である。

なお、原告が求める別紙一、二の公告文については、裁判所自体が広告の主体となることを求める法的根拠はなく、その範囲で失当である。

第五  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告榎に対し、本件奈良日日新聞記事につき、損害賠償金として一〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の後であることが明らかな平成元年五月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告榎、同木村及び同月刊タイムス社に対し、本件月刊TIMES記事につき、損害賠償金として各自三〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の後であることが明らかな、被告榎については平成元年五月二六日から、被告木村については同月二五日から、被告月刊タイムス社については同月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告木村及び同月刊タイムス社に対し、本件月刊TIMES記事につき、名誉回復措置として、同被告らが連帯して別紙五記載の広告を同掲載条件欄記載の条件で、月刊TIMESに一回掲載すべきことを求め、被告木村、同月刊タイムス社及び同内外タイムス社に対し、本件内外タイムス記事につき、損害賠償金として各目二〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の後であることが明らかな、被告木村については平成元年五月二五日から、被告月刊タイムス社については同月一九日から、被告内外タイムス社については同月二〇日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉回復措置として、同被告らが連帯して別紙六記載の広告を同掲載条件欄記載の条件で、内外タイムスに一回掲載すべきことを求める限度においてそれぞれ理由があるから、これらを正当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 熱田康明 裁判官 比嘉一美)

《当事者》

原 告 鬼追明夫

右訴訟代理人弁護士 滝井繁男 同 藤井 勲 同 八代紀彦 同 畑 良武

被 告 榎 恵之 <ほか一名>

右二名訴訟代理人弁護士 碓井 清

被 告 株式会社 月刊タイムス社

右代表者代表取締役 何 明棟 <ほか一名>

右二名訴訟代理人弁護士 大平恵吾

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